The Graphic Design Review

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デザイン映画・動画ガイド 〈Part 1〉

グラフィックデザイン編
デザイン映画・動画ガイド 〈Part 1〉

2000年代後半から10年代は欧米を中心にデザインをテーマにしたドキュメンタリー映画が数多く公開されてきた。その背景には20世紀モダンデザインの再検証がデザイン業界、社会的関心として浮上したこと、映像制作技術のデジタル化、配信や資金調達のチャンネルの広がりによって、インディペンデントな映像制作が容易になったことがあるだろう。


デザインについての動画は、ネット上には(正規なものかどうかを問わず)インタビューや講演を含めて数々の動画が存在しているが、本記事では基本的に商用作品として販売、配信されているものを中心に紹介する。私見では2007年に公開された映画『ヘルベティカ』(ゲイリー・ハストウィット監督)の成功が、その後に続くデザイン系ドキュメンタリーの端緒となったようにも思われる。

グラフィック、プロダクトやファッション含め、各ジャンルでさまざまなドキュメンタリーが制作されているが、本サイトではグラフィックデザイン、タイポグラフィ関連の映像作品について紹介したい(タイポグラフィ、テクノロジー関連の作品を紹介する〈Part2〉は追って公開予定)。日本語字幕が付いているものは決して多くないが、映像を通じて話の大枠を摑むことは難しくないと思う。

日本でもこの種のドキュメンタリーが制作されていくことを期待したい。とくに歴史的なものについては、当事者や関係者に取材する時間は多く残されていないだろうから。

なお、本原稿執筆の時点でバウハウス100年映画祭の最終アンコール上映が2020年12月末まで開催されている。貴重な映像作品群を日本語字幕付きで見られる機会なので、お見逃しなく。

〈Part2〉はこちら

1:バウハウスとモダンデザインの展開
バウハウスの理念やその遺産は二つの大戦をはじめとする社会情勢や政治、思想と切り離せない。これらをテーマにした映像作品は、教科書の記述や図版で見る以上に、同校をめぐる動きやその時代精神への理解を深めてくれる。当時の映像ソースは限られているが、グロピウス、カンディンスキーといった歴史的な人々が動いている様子を見るのも単純に刺激的だ。こバウハウスは2019年に開校100周年を迎え、その周年事業にあわせた映像作品も作られている。いまこの原稿を執筆している時点で「バウハウス100年映画祭」が開催中(2020年末まで)。以下ではバウハウスや同時代のモダニズムやその後の展開にかかわった人物についての映像作品をまとめた。

バウハウス関連

『Bauhaus – Modell und Mythos(バウハウス:原形と神話)』(Kerstin Stutterheim、Niels Bolbrinker監督、1999、2009年)はバウハウスの創設とその展開を大戦間の時代背景や関係者の証言を交えて明らかにするドキュメンタリー。本作はドイツ語だが、英語でも『BAUHAUS – The Face of the 20th Century』(Frank Whitford監督、1994年)やバウハウス100周年で公開されたテレビドキュメンタリー『Bauhaus 100』 (BBC Four、2019年)など、概説的な内容のものがいくつか存在する。これらの作品から、モダンデザインが単に造形の問題ではなく政治や思想の問題と切り離せないことがあらためて理解できる。

マックス・ビル
バウハウスに学び、戦後スイスで国際タイポグラフィ様式いわゆるスイス・タイポグラフィの形成に影響を与え、またバウハウスの後継的存在ともいえる西ドイツ、ウルム造形大学の学長も務めたキーパーソン、マックス・ビル(Max Bill、1908–1994)のドキュメンタリーが『Max Bill – das absolute Augenmaß(マックス・ビル:絶対的な視点)』(Erich Schmid監督、2008年)。これも先ほどのバウハウス100年映画祭で公開されている。社会や政治への信条と密接に結びついたビルの多メディアにわたる活動が活写される。

公式サイト
https://erichschmid.ch/

ニューバウハウスとモホイ゠ナジ
バウハウスの教師でもあり、ナチスから逃れて1937年アメリカに渡り、シカゴにニュー・バウハウスを設立した写真家、画家、タイポグラファのラースロー・モホイ゠ナジについての映画が昨年公開されたばかりの『The New Bauhaus – The Life and Legacy of Moholy-Nagy(ニューバウハウス:モホイ゠ナジの生涯と業績)』(Alysa Nahmias監督、2019年)。それ自体は短命に終わったニューバウハウスだが、モホイ゠ナジの活動や理念はその後のアメリカデザインの実践や教育に大きな影響を与えた。

ハーバート・マター
モホイ゠ナジのように、第2次世界大戦によって多くのヨーロッパのアーティストやデザイナーは新天地アメリカに活動の場を求め、戦後アメリカのデザイン文化を発展させていった。ダイナミックなフォトモンタージュのポスターで知られたハーバート・マター(Harbert Matter、1907–1984)も(いわゆる亡命ではないが)そのような一人である。1936年にアメリカに移住したマターは、フォトグラファ、デザイナーとして『ハーパース・バザー』『ヴォーグ』をはじめとする雑誌や広告仕事を通じて、アメリカの広告・雑誌デザインの黄金時代を担っていく。『The Visual Language of Herbert Matter(ハーバート・マターの視覚言語)』(Reto Caduff監督、2009年)は、マターの生涯と仕事をスタイリッシュな編集でまとめている。

2:戦後アメリカのグラフィックデザイナー
ハーバート・マターの話からつながるが、戦前のヨーロッパの新興造形運動を戦後に継承、発展させたのは戦時で疲弊を免れたアメリカとスイスだった。とくにアメリカでは商業活動と結びついた多様なグラフィックデザインが展開される。以下では、その主導的な役割を果たしたデザイナーたちのドキュメンタリーを紹介しよう(スイス方面は自然とPart 2にて)。

ミルトン・グレイザー
『Milton Glaser – To Inform and Delight(ミルトン・グレイザー:伝えること、楽しませること)』 (Wendy Keys監督、2008年)はプッシュピン・スタジオの創設者の一人で、50年代からウィットに富んだ表現的なデザイン、イラストレーションにおいて世界的な影響力を発揮したアメリカのデザイナー、ミルトン・グレイザー(1929–2020)についてのドキュメンタリー。「I♥NY」ロゴは誰もが一度は目にしたことがあるはずだ。

 

マッシモ・ヴィネリ
『Design is One – Lella and Massimo Vignelli(デザインはひとつ:レラとマッシモ・ヴィネリ』(Kathy Brew、Roberto Guerra監督、2012年)は、象徴主義的なグレイザーと対極のバリバリのモダニストデザイナー、NYの地下鉄地図やアメリカ航空のロゴなどで知られるマッシモ・ヴィネリ(1913–2014)とその公私にわたるパートナーであるレラ(1934–2016)についてのドキュメンタリー。グレイザー、ヴィネリはそれぞれが戦後アメリカデザインを流れる対照的な二つの潮流を代表するデザイナーといっていいと思う。両作品を見ることで20世紀後半のアメリカ・グラフィックデザインの流れがより立体的に理解できるだろう。

公式サイト
https://designisonefilm.com/

ソール・バス
彼らの同時代人で生粋のニューヨーク生まれだが、40年代からロサンゼルスに活動の拠点を移し、グラフィックのみならず映画のタイトルシーケンスでパイオニア的な仕事を残したソール・バス(1920–1996)。『黄金の腕』『めまい』をはじめとする代表的な映像作品にバス本人の解説を加えたものが『Bass on Titles』(1977年)である。独自の追加コンテンツを収録した日本版DVDソフト『ソール・バスの世界』が発売されている。バスの作品やインタビューをまとめたオンライン動画は数多いが、その出来はピンキリかつほとんどが非公式だと思われるのでいちいち紹介はしないが、ヒッチコック映画の海外版ソフト特典映像だったらしい『Saul Bass: Title Champ』(Gary Leva監督、2008年)は短いながらバスのヒッチコック作品について、マーティン・スコセッシやギレルモ・デル・トロといった映画監督、現代の映画タイトルデザインの第一人者であるカイル・クーパーのコメントが収録されていて見る価値はある。

『ソール・バスの世界』(ジェネオン エンタテインメント、2008年)
https://www.amazon.co.jp/dp/B001BWTVU6/

ポーラ・シェア
動画配信サービス大手のNetflixのオリジナル・ドキュメンタリーシリーズ「アート・オブ・デザイン」は、さまざまなジャンル、時代のデザイナーを追いかけて評判を呼んでいるプログラム。そのなかでグラフィックデザイナーのポーラ・シェア(Paula Scher、1948–)を取り上げた回がある。先述のミッドセンチュリーに活躍したデザイナーたちの子供世代に当たる彼女は、ベトナム戦争やマイノリティ解放運動など社会問題とカウンターカルチャーの時代を生きてきた。70年代に音楽業界で活動した後、80年代に表現的なタイポグラフィック・デザインでいちやく注目されたポーラ・シェアは、以来、実践者、教育者としてアメリカのデザイン業界を牽引している。番組では彼女の力強い生き方と一体となった制作態度を紹介する。なお、先述のグレイザーらのプッシュピン・スタジオとは浅からぬ関係があることにも触れられている。いまならYouYube上で公式に全篇が視聴可能。

3:グラフィックデザイン・広告全般
前半の最後はレコードジャケットや国家のデザイン、広告など、さまざまなテーマの作品をまとめて紹介。

レコードジャケットのデザイン
レコードジャケットをはじめ音楽のパッケージは、そのパッケージとしての機能とともにある種の自律的な表現的デザインの場として独自のデザイン文化を積みあげてきた。サブスクリプション時代を迎えて音楽のパッケージメディアはその存在感を失うかと思いきや、レコードやカセットのようなフィジカルリリースが復権したり、配信ならではの新しいヴィジュアル戦略が生まれたり、依然面白い領域であり続けている。フランスとドイツの公共放送プログラムARTEが提供する「Total Records」シリーズは毎回、ジャケットデザイン史上に残るジャケットを取り上げ、その制作背景について解説。音楽とイメージメイキングの関係についてさまざまな視点を提供する。

公式サイト
https://www.arte.tv/en/videos/RC-014402/total-records-cult-record-covers/

プロモーション映像
https://www.youtube.com/watch?v=eGQy0H9Webg

カナダのデザイン
『Design Canada(カナダをデザインする)』(Greg Durrell監督、2018年)は、英仏の辺境的な植民地から多文化的な独立国家となった近代カナダの国家アイデンティティ形成にデザインが与えた影響を、1960、70年代の先進的なデザイナーによる取り組みや事例にみるドキュメンタリー。いままで広く知られることのなかったカナダのモダンデザイン史の一端がひもとかれる。これからは国家や地域別のデザインを取り上げるドキュメンタリーも増えていくかもしれない。

公式サイト
https://designcanada.com/

 

広告のクリエイティブ
『Art & Copy(アートとコピー)』(Doug Pray監督、2010年)はDDBをはじめとする60年代アメリカ、ニューヨークのマジソン・アヴェニュー周辺の広告代理店が巻き起こした「クリエイティブ・レボリューション」以降の主要な広告キャンペーンやそのインスピレーションの秘密に迫るドキュメンタリー。アメリカの広告史上に残る名作や、ジョージ・ロイス、メアリー・ウェル・ローレンス、ダン・ワイデン、リー・クロウといった有名クリエイターの証言を通じて、広告が社会と文化に与える影響、その光と影について考える。各時代の社会情勢やライフスタイルを反映して生み出され、またその後の世界に影響を与えていったアメリカの広告史を通覧できる教科書的内容。案外、こういう内容が丁寧にまとまっている資料は少ないように思う。

マッドメン
1960年代ニューヨークに広告業界を舞台にしたAMCの連続ドラマシリーズ。エミー賞の多くの部門でノミネート、受賞しているように、そのドラマとしての質は折り紙付きだ。セットやファッションを含め60年代の様子が細かいディテールで作り込まれているのみならず、当時の歴史的事件や広告・デザインに即したトピックが数多く盛り込まれているので、そういう観点からも楽しめる。DDBやレオ・バーネット、デイヴィッド・オグルヴィといった広告人の名前を少しでも知っている人なら、さらに盛り上がれると思う。広告、デザイン業界関係者は必見だと個人的には思っていたが、あまり話題になってなかったようなので、ご存じなかった方にはあらためてご覧いただきたいところ。

 

番外編

ジョルジュ・メリエス『Les affiches en goguette 』(1906)
フランスの映画制作者で、映画草創期にさまざまな魔術的撮影技術を駆使したジョルジュ・メリエスによるサイレント短編。タイトルを訳出すれば「ポスターの大騒ぎ」といったところだろうか。英語タイトルは『The Hilarious Posters(陽気なポスター)』。街頭に貼られたポスターに描かれた人物が現実に飛び出してきて大騒ぎ……という内容。1900年代の街頭ポスター、その存在感やイリュージョン性を伝える。