デザイン映画・動画ガイド 〈Part 1〉
1:バウハウスとモダンデザインの展開
バウハウス関連
『Bauhaus – Modell und Mythos(バウハウス:原形と神話)』(Kerstin Stutterheim、Niels Bolbrinker監督、1999、2009年)はバウハウスの創設とその展開を大戦間の時代背景や関係者の証言を交えて明らかにするドキュメンタリー。本作はドイツ語だが、英語でも『BAUHAUS – The Face of the 20th Century』(Frank Whitford監督、1994年)やバウハウス100周年で公開されたテレビドキュメンタリー『Bauhaus 100』 (BBC Four、2019年)など、概説的な内容のものがいくつか存在する。これらの作品から、モダンデザインが単に造形の問題ではなく政治や思想の問題と切り離せないことがあらためて理解できる。
マックス・ビル
バウハウスに学び、戦後スイスで国際タイポグラフィ様式いわゆるスイス・タイポグラフィの形成に影響を与え、またバウハウスの後継的存在ともいえる西ドイツ、ウルム造形大学の学長も務めたキーパーソン、マックス・ビル(Max Bill、1908–1994)のドキュメンタリーが『Max Bill – das absolute Augenmaß(マックス・ビル:絶対的な視点)』(Erich Schmid監督、2008年)。これも先ほどのバウハウス100年映画祭で公開されている。社会や政治への信条と密接に結びついたビルの多メディアにわたる活動が活写される。
公式サイト
https://erichschmid.ch/
2:戦後アメリカのグラフィックデザイナー
ハーバート・マターの話からつながるが、戦前のヨーロッパの新興造形運動を戦後に継承、発展させたのは戦時で疲弊を免れたアメリカとスイスだった。とくにアメリカでは商業活動と結びついた多様なグラフィックデザインが展開される。以下では、その主導的な役割を果たしたデザイナーたちのドキュメンタリーを紹介しよう(スイス方面は自然とPart 2にて)。
マッシモ・ヴィネリ
『Design is One – Lella and Massimo Vignelli(デザインはひとつ:レラとマッシモ・ヴィネリ』(Kathy Brew、Roberto Guerra監督、2012年)は、象徴主義的なグレイザーと対極のバリバリのモダニストデザイナー、NYの地下鉄地図やアメリカ航空のロゴなどで知られるマッシモ・ヴィネリ(1913–2014)とその公私にわたるパートナーであるレラ(1934–2016)についてのドキュメンタリー。グレイザー、ヴィネリはそれぞれが戦後アメリカデザインを流れる対照的な二つの潮流を代表するデザイナーといっていいと思う。両作品を見ることで20世紀後半のアメリカ・グラフィックデザインの流れがより立体的に理解できるだろう。
『ソール・バスの世界』(ジェネオン エンタテインメント、2008年)
https://www.amazon.co.jp/dp/B001BWTVU6/
ポーラ・シェア
3:グラフィックデザイン・広告全般
前半の最後はレコードジャケットや国家のデザイン、広告など、さまざまなテーマの作品をまとめて紹介。
カナダのデザイン
『Design Canada(カナダをデザインする)』(Greg Durrell監督、2018年)は、英仏の辺境的な植民地から多文化的な独立国家となった近代カナダの国家アイデンティティ形成にデザインが与えた影響を、1960、70年代の先進的なデザイナーによる取り組みや事例にみるドキュメンタリー。いままで広く知られることのなかったカナダのモダンデザイン史の一端がひもとかれる。これからは国家や地域別のデザインを取り上げるドキュメンタリーも増えていくかもしれない。
公式サイト
https://designcanada.com/
広告のクリエイティブ
『Art & Copy(アートとコピー)』(Doug Pray監督、2010年)はDDBをはじめとする60年代アメリカ、ニューヨークのマジソン・アヴェニュー周辺の広告代理店が巻き起こした「クリエイティブ・レボリューション」以降の主要な広告キャンペーンやそのインスピレーションの秘密に迫るドキュメンタリー。アメリカの広告史上に残る名作や、ジョージ・ロイス、メアリー・ウェル・ローレンス、ダン・ワイデン、リー・クロウといった有名クリエイターの証言を通じて、広告が社会と文化に与える影響、その光と影について考える。各時代の社会情勢やライフスタイルを反映して生み出され、またその後の世界に影響を与えていったアメリカの広告史を通覧できる教科書的内容。案外、こういう内容が丁寧にまとまっている資料は少ないように思う。
番外編
ジョルジュ・メリエス『Les affiches en goguette 』(1906)
フランスの映画制作者で、映画草創期にさまざまな魔術的撮影技術を駆使したジョルジュ・メリエスによるサイレント短編。タイトルを訳出すれば「ポスターの大騒ぎ」といったところだろうか。英語タイトルは『The Hilarious Posters(陽気なポスター)』。街頭に貼られたポスターに描かれた人物が現実に飛び出してきて大騒ぎ……という内容。1900年代の街頭ポスター、その存在感やイリュージョン性を伝える。
公開:2020/12/23
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ひび割れのデザイン史/後藤護
- 77
リリックビデオに眠る記憶の連続性/大橋史
- 76
青い線に込められた声を読み解く/清水淳子
- 75
日本語の文字/赤崎正一
- 74
個人的雑誌史:90年代から現在/米山菜津子
- 73
グラフィックデザインとオンライン・アーカイブ/The Graphic Design Review編集部
- 72
小特集:ボードメンバー・ブックレヴュー Vol. 2/永原康史/樋口歩/高木毬子/後藤哲也/室賀清徳
- 71
モーショングラフィックス文化とTVアニメのクレジットシーケンス/大橋史
- 70
エフェメラ、‘平凡’なグラフィックの研究に生涯をかけて/高木毬子
- 69
作り続けるための仕組みづくり/石川将也
- 68
広告クリエイティブの現在地/刀田聡子
- 67
音楽の空間と色彩/赤崎正一
- 66
トークイベント 奥村靫正×佐藤直樹:境界としてのグラフィックデザイン/出演:奥村靫正、佐藤直樹 進行:室賀清徳
- 65
『Revue Faire』:言行一致のグラフィックデザイン誌/樋口歩
- 64
小特集:ボードメンバー・ブックレヴュー
/樋口歩/永原康史/高木毬子/後藤哲也/室賀清徳 - 63
表現の民主化と流動性/庄野祐輔
- 62
コマ撮り/グラフィックデザイン/時間についての私的考察/岡崎智弘
- 61
画像生成AIはデザイン、イラストレーションになにをもたらすのか?/塚田優
- 60
書体は作者の罪を背負うか/大曲都市
- 59
図地反転的映像体験/松田行正