The Graphic Design Review

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SPINE vol.4

世界のデザイナーの本棚から
SPINE vol.4 Alejandra Valenzuela

デザイナーの本棚から勝手に文脈を紡ぎ出す連載コラム。第4回は、チリ共和国を拠点に活動するAlejandra Valenzuela(アレハンドラ・ヴァレンズエラ)の本棚を紹介します。

 

チリは、南北に細長い南米の国であること、モアイ像で有名なイースター島があることなどは知られていますが、ことグラフィックデザインとなるとすぐにはイメージが浮かばないのが正直なところ。今回のレビュアーであるアメリカ西海岸在住のデザイナー/キュレーターJon Sueda(ジョン・スエダ)も「同じアメリカ大陸でも、北米と南米の間のグラフィックデザインに関する交流はあまりなく、今後機会が増えることを期待している」と言います。かの地でグラフィックデザイナーは何を読み、どのように活動しているのでしょうか。

 

チリ出身のAlejandra Valenzuelaは、2013年から2015年にかけてカリフォルニア美術大学大学院で学び、デザイン学修士を取得。その後チリに戻り、プリントとグラフィックデザインのためのスタジオを運営しています。カリフォルニア美術大学在籍中、デザイン学科長のJon Suedaと出会い、彼がキュレーションした展覧会「All Possible Futures: Unrealized Archive 02」にも参加しています。Suedaは「グラフィックデザインの文脈のなかであまり紹介されない国にいる才能あるデザイナーにも注目してほしい」との思いで、今回Valenzuelaの本棚を紹介。本棚に見つけた3冊から彼女のデザインを紹介します。

SPINE 04

デザインスタジオ:Alejandra Valenzuela(チリ共和国・ラグナ デ プチュンカビ)

レビュアー:Jon Sueda(STRIPE

アレハンドラ・ヴァレンズエラは、チリの首都であり文化の中心地でもあるサンティアゴから2時間ほど離れたラグナ・デ・プチュンカビに住んでいる。カリフォルニア美術大学でデザインの修士号を取得するため数年間サンフランシスコで暮らしたのち、都市生活にはつきものの高い生活費とワーカホリックな精神から逃れるために、2016年にこの辺鄙な海岸沿いの街に移り住んだ。彼女はここに仕事と生活のための静かなスペースを作り、文化芸術領域向けのリミテッドエディション・プリントの印刷とグラフィックデザインのためのインディペンデント・デザインスタジオを運営している。並行して、建築家である夫と家具デザイン会社Materiaを共同で運営している。美しいビーチと山に囲まれた小さなスタジオと隣接する木工店を、「創作のためのスペースであり、必ずしもビジネスのためとは限らない」とヴァレンズエラは語る。彼女の本のコレクションは、数こそ控えめだが、世界中から集められた多様で折衷的なタイトルが含まれ、グラフィックデザイン、アート、建築、家具など、彼女の様々な興味や旅の軌跡を反映した本が並んでいる。

 

芸術としてのデザイン』(ダヴィッド社)

イタリアのアーティスト・デザイナー、ブルーノ・ムナーリによる『芸術としてのデザイン』は、学際的な実践のためのマニフェストである。ムナーリは芸術とデザインの間にある領域を探索し、日常生活におけるグラフィックデザインならびにインダストリアルデザインの役割について、よどみなく語っている。機能と無用の間の生産的な領域について問いかけ、私たちが生活する世界の物質がそのまま芸術作品とみなされる世界を熱望している。ヴァレンズエラの作品は、ムナーリの特異でしばしば不条理主義的なアプローチからインスピレーションを受けている。

 

The Usefulness of Useless Knowledge

『The Usefulness of Useless Knowledge(役立たずな知識の有益性)』は、ニュージャージー州プリンストンにあるプリンストン高等研究所を設立した教育者エイブラハム・フレクスナーによって書かれた本。研究に基づいた、あるいは、科学的な手続きが抱える普遍的な逆説――つまり、問いや好奇心に突き動かされた調査がしばしば偉大な発見やイノベーションにつながるということ――について述べている。ヴァレンズエラは、具体的なゴールを意識せずに知覚的な実験を行う。その際、説得力ある結果を導き出すデザインプロセスのために、これらのアイデアを適用している。

 

Reading as Art

サイモン・モリスによる『Reading as Art(芸術としての読書)』は、モリスが2016年にイギリスのベリー・アートミュージアムでキュレーションしたグループ展のカタログ。この展覧会では、ケイト・ブリッグス、マーティン・クリード、ケネス・ゴールドスミスなどのアーティストの作品を通して、芸術的行為としての読書、物質としての言語を探求した。モリスはチリを訪れた際、ヴァレンズエラのプリント作品のひとつであり、文字のカウンター・スペースを木工品のように組み合わせて、新たなかたちに再構築した「Letterjoint」を購入した。モリスはこの作品と彼の展覧会との関連性を高く評価し、彼女にこの本を贈った。

SPINE vol.4 Alejandra Valenzuela
Letterjoint, 2019

ヴァレンズエラの本棚は、彼女の学際的な実践とコンセプチュアルで教育的なデザインアプローチを反映している。棚をじっくり見渡すと、木工に関する実用的なハウツー本や図面集から、より理論的で教育的なタイトルまで、幅広い種類の本を見つけることができる。彼女の本の多くは言語の物質性、タイポグラフィの物質性、および2次元と3次元の間の境界を問うことへの彼女の興味を反映している。彼女の作品『Escritura O Wrapped Text (Writing or Wrapped Text)』は、7mmのマスキング・テープを連続した線として使用し、テープを折り曲げて、言語がページを覆う様子をグラフィカルに表現している。この面倒な方法は、ヴァレンズエラ曰く「テキストをイメージに変換する――段落、間引き、余白は、完全ではあるが内容のないダイアグラム化されたページを提示する」。彼女が「本のオブジェ」と呼ぶプロジェクト「Cubículo (Cubicle)」は、一見単純な二次元の正方形の表現を脱構築し、私たちの空間認識を複雑にする複数の構造を可能にしている。

SPINE vol.4 Alejandra Valenzuela
Escritura O Wrapped Text, 2019
SPINE vol.4 Alejandra Valenzuela
Cubículo, 2020

アレハンドラ・ヴァレンズエラの実践は、彼女の作品の多くがそうであるように、アートとデザイン、デジタルと身体性、平面と次元、体系と非論理の間で動作している。彼女の作品がどのカテゴリーにも付着しないという意味で、そして、彼女自身がメインストリームの外側で生活し働いているという意味で、彼女にとってデザインは孤独な仕事だ。彼女は普段から人と会うことが少ないため、新型コロナウイルス・パンデミックの厳格な生活様式には大きな影響を受けていない。家族との時間、自宅の手入れ、工房やスタジオでの作業に毎日を費やしている。彼女は、自分の作品やこれまでの活動を問いながら周囲の環境に佇む時間を享受しつつ、彼女が言うところの「機会のためのオープンスペース」を開き続けている。

Jon Sueda(ジョン・スエダ)

文化芸術関連の展覧会にかんするエキシビジョンデザインと印刷物のデザインに特化したデザインスタジオ「Stripe」主宰。カリフォルニア美術大学美術修士課程デザイン学科長。キュレーションした主な展覧会にAll Possible Futures (SOMArts, San Francisco, 2013)がある。2016年よりAGIメンバー。